【誌上講義】波動ファンダメンタルズ

この記事は,映像講義「入試物理ファンダメンタルズ[波動]」の要点を誌上講義化したものです.

§正弦進行波

波とは何か説明し,波に関わる諸量を導入し,それらの間の関係式(波の基本式)を理解する.また,波のグラフの基本的な取り扱い,横波と縦波について学ぶ(波の数式表現は後に).

◆正弦進行波の導入

(波動,wave)とは,媒質の振動が周囲の媒質へと伝わってゆく現象のこと.

  •  媒質各地点の振動に注目 ⇒ それぞれ異なるタイミングで振動している.
  •  媒質全体の形に注目 ⇒ 波形が移動していくように見える.

特に,波形がサイン・カーブで表され,媒質の各点が単振動しているような波を正弦波とよび,大学入試物理では1次元的で連続的な正弦波を中心に扱う.

※ 波とは,振動と共にエネルギーが伝わっていく現象と捉えることもできる.
※ 例えば,円形波も扱うが,拡がることでの振幅の減衰は扱わず,実質的に1次元的な波として扱う
※ 実は,どのような波も,正弦進行波の重ねあわせで表されることが知られている(フーリエ展開).なので,入試物理の間に正弦進行波をしっかり学んでおくことは,意義深い. 
※ 単発の波をパルス波という.

◆単振動の要点と用語の導入

単振動とは,変位$y$が時刻$t$の関数として,次のように表せる運動のことである:

$$y = A\sin\underbrace{(\omega t+\theta_0 )}_\text{位相}$$

ここで,$A$は振幅,$\omega$は角振動数であり,単振動の周期は$T = \dfrac{2\pi}{\omega}$である.この$\sin$関数の引数の部分$(\omega t+\theta_0 )$を振動の位相 (phase) と呼ぶ.

また,単位時間あたりの振動回数を表す量$f = \dfrac{1}{T}$のことを振動数周波数 (frequency) という.振動数の単位は,Hz(ヘルツ)を用いる.ただし,$\mathrm{Hz}=\mathrm{s^{-1}}$である.

《例》振動数の数値例に触れ,単位Hzを理解する.

単振動する物体の速度は,

$$v_y = \frac{dy}{dt} = A\omega\cos (\omega t+\theta_0 )$$

のように表される.波動分野では次の大雑把な事実が問われることが多いので,常識にしておく:

  • 振動の端で速度ゼロ.
  • 振動中心で速さ最大.

《例》振動を表すグラフ(変位の時間変化)について確認する.

◆波の基本式

連続的な波の山から山までの最短の長さのことを波長 (wavelength) と呼ぶ.波長は,空間的なくり返しの周期である.

波は1周期の間に1波長分進むので,波の伝わる速さを$c$,波長を$\lambda$として,次の関係が成り立つ(周期$T$,振動数$f$):

$$c = \frac{\lambda}{T} = f\lambda~.$$

この公式は,波の動きを考えることで(丸暗記ではなく)思い出せるようにしておく.

《例》数値例を通じて,次元の確認をする.

◆波のグラフによる表現

波を表すグラフには,波形グラフ振動グラフがある.

波形グラフは,時刻$t$を固定して,媒質の変位$y$を縦軸に,位置$x$を横軸にとったグラフであり,ある瞬間の媒質全体のようすを表す.

振動グラフは,位置$x$を固定して,媒質の変位$y$を縦軸に,時刻$t$を横軸にとったグラフであり,ある地点の媒質の振動のようすを表す.

波形を動かしてみる(「2コマ漫画」を作図してみる)ことで,各地点の振動を読み取ることができるため,波形グラフで考えることを基本とするのがよい(波形グラフと振動グラフは混同が起こりやすいため,振動グラフは無暗に用いないことを推奨).

◆横波と縦波

波には,横波と縦波がある.

  • 横波:〔波の伝わる方向〕⊥〔媒質の振動の方向〕.
  • 縦波(疎密波):〔波の伝わる方向〕//〔媒質の振動の方向〕
             ⇒媒質の密度変化を引き起こす.

縦波(疎密波)の波形グラフから各地点の疎密を読み取れるようにしておく.

【波のグラフの基本思考】
① 波形を少し移動させることで各地点の動きが読み取る.
② 縦波(疎密波)の波形から各地点の疎密を読み取る.

《解法F例題10-1】波形グラフから媒質の動きを読む.
【解法F例題10-2】縦波の波形グラフから疎密を読む.

◆【補足】音波の性質

音波は,空気などの流体を伝わる縦波(疎密波)である,音波の性質として,次のようなことは常識にしておきたい:

  • 常温常圧の乾燥空気中での音速は340m/s(温度が上がると速くなる)
  • 振動数 ⇔ 音の高さ(可聴範囲は20Hz-20000Hz程度)
  • 振幅 ⇔ 音の大きさ

§反射と定常波

◆重ねあわせの原理

同種の2つの波が重なって生じる合成波の変位は,各々の変位の和となる.すなわち,各々の波による変位を$y_1$,$y_2$とすれば,合成波の変位は,

$$y_\text{合成} = y_1+y_2$$

となる.この事実を重ねあわせの原理という.

◆反射

異なる媒質の境界で波は反射する.高校物理では,自由端反射(媒質の境界が完全に自由に運動できる場合の反射)と固定端反射(媒質の境界が完全に固定されて動けない場合の反射)の2通りのみを扱う.

① 自由端反射 ⇒ 波は単に折り返す.
② 固定端反射 ⇒ 山と谷が逆転して(位相がπずれて)折り返す.

波の反射

【解法F例題11-1】パルス波の自由端反射の作図を行う.
【解法F例題11-2】パルス波の固定端反射の作図を行う.

◆定常波

逆向きに進む波長の等しい正弦進行波の合成波は,各点が位相のそろった単振動を行うような「進行しない」波となる.これを定常波とよぶ.

定常波において振幅が最大の点を,振幅が最小の点をとよぶ.腹と腹(節と節)の間隔は半波長である.

また,定常波は,反射絡みで生じることが多いが,その際,自由端は腹,固定端は節となる.

【定常波の基本性質】
① 腹と腹・節と節の間隔は半波長.
② 反射がある場合,自由端が腹,固定端が節となる.

【解法F例題12-1】定常波の生成の様子を作図で実感する.

§波の数式表現

◆波の式の作り方

地点AからBへ波が時間$t_\text{AB}$かけて伝わる場合,次のような考え方に基づき,波の式を作ることができる:

$$\text{(今のBでの変位)} = \text{(}t_\text{AB}\text{だけ前のAでの変位)}$$

【解法F例題17-1】進行波の式の最も基本的な場合を確認する.

◆定常波の式

$x$軸に沿った媒質を互いに逆向きに伝わる2つの波の合成を考えよう.正方向へ伝わる波の変位が,

$$y_1(x,\,t) = A\sin\left\{\frac{2\pi}{T}\left(t-\frac{x}{c}\right)\right\}$$

で,負方向へ伝わる波の変位が,

$$y_2(x,\,t) = A\sin\left\{\frac{2\pi}{T}\left(t+\frac{x}{c}\right)\right\}$$

であったとする($A$は振幅,$T$は周期,$c$は波の伝わる速さである).その合成波の変位は,

$$Y(x,\, t) = 2A\sin\left(\frac{2\pi}{T}t\right) \cos\left(\frac{2\pi}{cT}x\right)$$

となる.これが定常波を表す.ここで,三角関数の和→積公式

$$\sin a+\sin b = 2\sin\frac{a+b}{2}\cos\frac{a-b}{2}$$

を用いた.

§固有振動

◆固有振動の導入

物体を自由な状態で揺らしたときに起こる振動を固有振動という(形状・密度・硬さで決まる).

また,物体に固有振動数と等しい周期で変化する外力を加えると振幅が次第に増大する.この現象を共振・共鳴という.高校物理では,特に,弦と気柱の固有振動を押さえる.

◆弦の固有振動

両端が固定された弦の固有振動は,両端が節の定常波である.

弦を伝わる波の速さの公式も覚えておく:

$$c = \sqrt{\frac{S}{\rho}}~.$$

◆気柱の固有振動

気柱の固有振動は,開口端が腹,閉口端が節の定常波である.

ただし,開口端の腹の位置はわずかに外側にずれ,そのずれの長さを開口端補正とよぶ.

* 弦 ⇒ 両端が節の定常波.
* 気柱 ⇒ 閉口端が節,開口端が腹の定常波(開口端補正に注).

固有振動

【解法F例題13-1】弦の固有振動の作図から固有振動数を求める.
【解法F例題13-2】閉管内の気柱の固有振動の作図から固有振動数を求める.

※ 弦を伝わる波の速さの公式の力学的な説明の問題は,典型演習や集中講義にて扱う.
※ 開管は典型演習で扱う(両側閉口端の出題例も少数ながらある)

§うなり

振動数がわずかに異なる2つの音波を重ねあわせると,振幅が周期的に大小をくり返すように聴こえる(うなる).この現象をうなり (beat) とよぶ.

振動数$f_1$,$f_2$の2音から生じるうなりの単位時間あたりの回数(振動数)は,

$$f_\text{b} = |f_1-f_2|$$

となる.

【解法F例題14-1】数値例に触れる.
【解法F例題14-2】与えられた振動グラフを用いて公式をする.

§ドップラー効果

◆ドップラー効果の導入

音源や観測者の運動により,波の波長や観測される振動数がずれる現象をドップラー効果という.音源が動く場合と観測者が動く場合の,仕組みの違いをしっかり理解しておくことが大事.

◆音源が動く場合

音源が動くと,生じる音波の波長が変わる(音速は音源の運動に依らない).

【解法F例題15-1】作図により公式を導出する.

◆観測者が動く場合

観測者が動くと,単位時間あたりに受け取る波の個数が変わる.

【解法F例題15-2】作図により公式を導出する.

◆ドップラー効果の公式のまとめ

一直線上のドップラー効果を考える.音源→観測者の向きを正とし,音源の速度を$v_\text{S}$,観測者の速度を$v_\text{O}$とする.生じる波長は,

$$\lambda^* = \frac{c-v_\text{S}}{f}$$

であり,この分子は音源から見た音速と解釈できる.また,観測者が観測する振動数は,

$$f^* = \frac{c-v_\text{O}}{\lambda^*}$$

であり,この分子は観測者から見た音速と解釈できる.

なお,これらの結果をまとめると,

$$f^* = \frac{c-v_\text{O}}{c-v_\text{S}}f$$

となるが,この結果だけ覚えてはダメ(波長が分からなくなってしまうから).

【解法F例題15-3】公式を再現する練習を行う.

◆斜め方向のドップラー効果

音源と観測者の運動方向が一直線上にない場合には,各々の速度の視線成分(音源と観測者を結ぶ方向の成分)のみがドップラー効果に寄与する.

【解法F例題15-4】具体例で公式の運用を行う.

§干渉

2つの波が強めあう・弱めあう条件を,(経路差だけでなく)位相差を用いて理解する.

◆2つの波の干渉条件

2つの波の干渉条件は次のようになる:

$$ \text{(位相差)} = \begin{cases} 2m\pi & \text{(強めあい)}~,\\ (2m+1)\pi & \text{(弱めあい)}~.\\ \end{cases} $$

道のり$L$と位相$\phi$の換算は常識にしておく:

$$L\overset{対応}{\longleftrightarrow}\phi = \frac{2\pi}{\lambda}L ~.$$

※ 標準レベルでも位相差を用いた議論を指示される場合がある.

§屈折

◆屈折率

屈折率$n$の媒質中では,波の伝わる速さと波長が$1/n$倍になる(振動数は変わらない).

◆屈折の法則

波は,屈折率の異なる媒質の境界面で,反射・屈折する.

反射については,入射角と反射角は等しい(反射の法則).

屈折率$n_1$の媒質から,屈折率$n_2$の媒質へ入射する場合には,次のことが成り立つ(屈折の法則):

$$n_1\sin\theta_1 = n_2\sin\theta_2~.$$

【例】数値例を扱う.

屈折の法則の導出の前に,波面と射線が直交する事実を確認しておく(このことは干渉の問題などでも重要な出発点となる).

【解法F例題16-1】作図により屈折の法則を導出する.

※ 屈折の法則は,分数形で覚えないのがよい.

◆全反射

波の屈折において,屈折角が90度になるような入射角を臨界角という.入射角が臨界角を超えると,屈折光は消え,入射光は全て反射される.この現象を全反射という.

【解法F例題16-2】全反射が起こるための条件を扱う.

§光の干渉実験

有名な実験装置を網羅しておく.ヤングの実験,回折格子,くさび型空気層,ニュートン・リング,薄膜.

◆【補足】光の性質

準備中

◆スリットを通過して回光の干渉折した光の干渉

ヤングの実験では,2つのスリットから回折して広がった光が,スクリーン上で干渉し,明暗の縞模様(干渉縞)をつくる.

回折格子は,等間隔に並んだ無数のスリットと同じ役割をする.

【解法F例題19-1】ヤングの実験
【例】回折格子

※ $n$個のスリットを通過した光の干渉については特講で扱う.

◆光路長

光路長光学的距離)を次のように定義する:

$$\text{(光路長)} = \text{(屈折率)}\times\text{(道のり)}$$

屈折率のある媒質中での波の位相遅れの計算は,波の伝わる速さが変化することを考慮する代わりに,光路長を用いても同じ結果になる.

◆光の反射による位相のずれ

光が屈折率の小さい媒質から大きい媒質へ向かって入射して反射するとき,位相が$\pi$ずれる(逆の場合にはずれない.また,屈折でもずれることはない).

【解法F例題19-2】薄膜(垂直入射)

§レンズ

レンズや鏡に関する問題は,次のパターンに分類できる.

① レンズや鏡の性質を前提に,公式を導出する.
② レンズや鏡の公式を前提に,像の位置などを計算する.
③ レンズや鏡の性質を導く.

レンズ・鏡の問題の分類

①について,像を作図するには,光軸に平行に入射する光線と中心を通る光線を描けばよい.そして,レンズの公式を作るには,被写体に対する像の倍率を(相似などを用いて)2 通りで表せばよい.実像と虚像の混乱がよくみられる.実像は,実際に光線が集まり,そこにスクリーンを置けば像が写る.一方,虚像は,物体があたかもそこに在るかのように見える,というものである.

②については,公式の運用自体も多少面倒なところがあるので,慣れておく必要がある.ただし,「虚物体」の扱いなど,出題頻度が低い所は,状況に応じてスルーしてもよいだろう.

③について,レンズや鏡を通過した光線の性質は反射・屈折の法則から説明される.これについては,レンズ・鏡の問題というより,光の屈折の問題(幾何光学)と捉えればよい.

◆レンズの性質

凸レンズを通る光線の性質として,次の3点を押さえる:

  1.  中心を通る光線は直進する.
  2.  光軸に平行な光線は,レンズ通過後,焦点へ向かう.
  3.  手前側の焦点を通った光線は,レンズ通過後,光軸に平行になる(1の光線の「逆」と捉えられる).

凹レンズを通る光線の性質として,次の3点を押さえる:

  1.  中心を通る光線は直進する.
  2.  光軸に平行な光線は,レンズ通過後,手前の焦点から出たかのように進む.
  3.  反対側の焦点へ向かう光線は,レンズ通過後,光軸に平行になる(1の光線の「逆」と捉えられる).

◆レンズによる像の作図と公式の導出

レンズによる像の作図では,像の作図では,無数に在る光線のうちの2本の光線を描けばよい(大抵は,光軸に平行に入射する光線,およびレンズの中心を通る光線を描く).

実像と虚像の明確に区別することが必要.実像では,実際に光線が集まって結像しており,像の場所にスクリーンを置けば実際に像が映る.一方で,虚像は,観測者がレンズの反対側から見たときに,本来の被写体の位置とは異なる場所に像が見えるというものである.

凸レンズの光軸上で,焦点より外側に被写体を置くと,レンズを挟んで反対側に倒立実像が生じる.

凸レンズの光軸上で,焦点より内側に被写体を置くと,レンズに対して同じ側に正立虚像が生じる.

凹レンズの光軸上で,焦点より内側に被写体を置いても,レンズに対して同じ側に正立虚像が生じる.凹レンズの光軸上で,焦点より外側に被写体を置くと,レンズに対して同じ側に正立虚像が生じる.

レンズの公式の導出の際には,被写体に対する像の倍率を,相似を利用して2通りに表すのが定石である.

◆レンズの公式のまとめ

レンズの公式はいずれの場合も,次の形にまとめられる:

$$\frac{1}{a}+\frac{1}{b} = \pm\frac{1}{f}~.$$

ここで,$f$は焦点距離,$a$はレンズから被写体までの距離,$b$はレンズから像までの距離であり,複号は$+$が凸レンズ,$-$が凹レンズの場合に対応する.なお,生じる像は,$b>0$の場合に被写体と反対側に倒立実像,$b<0$の場合に被写体と同じ側に正立虚像となる.被写体に対する像の倍率は,$m = \left|\frac{b}{a}\right|$で計算できる.