【誌上講義】力学ファンダメンタルズ[前編]

この記事は,映像講義「入試物理ファンダメンタルズ[力学]」前半部分の要点を誌上講義化したものです.

§運動学

◆変位と平均速度

力学は,物体の運動を扱う分野である.このセクションでは,速度と加速度について論じるが, まずは,一直線上での物体の運動(1次元の運動)について考えよう.

物体の運動する直線に沿って$x$軸を定め,物体の位置 (position) を座標$x$で表す.また,時刻 (time) は$t$と表す.

※ 物体の運動する直線に沿ってモノサシが置いてあるとする.その目盛りの読みに対応するのが座標$x$である.
※ ストップウォッチの読みが時刻$t$である.

時間$\Delta t$の間に物体が$x_\text{まえ}$の位置から$x_\text{あと}$の位置まで動いたとすると,その間の変位 (displacement) $\varDelta x$と平均速度は次のようになる:

$$ \begin{split} &\varDelta x = x_{あと}-x_{まえ}~,\\ &\overline{v} = \frac{\varDelta x}{\varDelta t}~. \end{split} $$

※ 速度は,「決まった時間の間にどれだけ変位するか」という割合であり,「位置の時間変化率(時間的な変化の割合)」,ないしは「単位時間あたりの変位」である.

《例》変位と速度の数値例.

◆速度の定義

$x$軸上での物体の運動について,時刻$t$から$t+\varDelta t$までの間の変位と平均速度は,次のように書ける:

$$\varDelta x = x(t+\varDelta t)-x(t)~,\quad\overline{v} = \frac{\Delta x}{\Delta t}~.$$

すると,時刻$t$の瞬間の速度 (velocity) $v$は,平均速度$\dfrac{\varDelta x}{\varDelta t}$の$\varDelta t\to 0$での極限値として定義される:

$$v = \lim_{\varDelta t\to 0}\frac{\varDelta x}{\varDelta t} = \frac{dx}{dt}~.$$

つまり,数学的には,$v$は$x$を$t$で微分したものと言える.速度のSI単位はm/sである.

※ $x(t)$は,(本来は関数とその引数を表す記号だが)「時刻$t$のときの位置$x$の値」を意味すると思っておけばよい. 
※ 今後,単に「速度」と言えば必ず「瞬間の速度」を指す.
※ $\varDelta$(デルタ),$d$(ディー)の記号は,差を表すことば(英語・ラテン語のdifference)の頭文字に対応する.

《例》速度の計算の具体例.

◆加速度の定義

$x$軸上での物体の運動について,時刻$t$から$t+\varDelta t$までの間の速度変化と平均加速度は次式となる:

$$\varDelta v = v(t+\varDelta t)-v(t)~,\quad\overline{a} = \frac{\varDelta v}{\varDelta t}~.$$

時刻$t$の瞬間の加速度 (acceleration) $a$は,平均加速度$\dfrac{\varDelta v}{\varDelta t}$の$\varDelta t\to 0$での極限値で定義される:

$$a = \lim_{\varDelta t\to 0}\frac{\varDelta v}{\varDelta t} = \frac{dv}{dt}~.$$

数学的には,$a$は$v$を$t$で微分したものと言える.加速度のSI単位は$\mathrm{m/s^2}$である.

※ 速度の場合と同様,単に「加速度」と言えば必ず「瞬間の加速度」を指す.

《例》数値例.

§運動方程式

物理の土台となる力学,その力学の土台となる運動方程式の立て方と, 受験学年の最初につまづきやすい束縛条件(拘束条件)を徹底的に攻略します. 物理は,はじめの一歩目のハードルが高い科目. それを乗り越えます.

※ 一般の参考書・問題集では,運動方程式に到達する前に,等加速度運動,放物運動,力のつりあい等のセクションがありますが,そのあたりは軽く飛ばして運動方程式にじっくり取り組む方が実力も付きやすく,学習のモチベーションも保ちやすいはずです.
※ 力については,弾性力(ばねの伸縮量の把握)と摩擦力(静止摩擦力と動摩擦力の区別)についての誤解が多いので注意.なお,液体の圧力や浮力については特に理解が浅くなりがちですが,一旦飛ばしても差支えがない所のなので,典型入試問題演習や真の特講で詳しく扱います.

◆慣性の法則

この世界では,力を受けていない物体は,一定の速度のままで在る.この事実を慣性の法則 (law of inertia) という(運動の第1法則ということもある).

※ 慣性のことを惰性ともいう.
※※ 現代的には,このような座標系(すなわち慣性系)の存在の仮定と解釈することもあるが,とりあえず気にする必要はない.

◆運動方程式

慣性の法則により,力を受けていない物体は一定の速度のままである.一方,力を受けると物体の速度が変化する(加速度が生じる).その規則を記述するのが運動方程式 (equation of motion) である(運動の第2法則ということもある).

運動方程式によると,質量$m$の物体が,力$\vec{f}_1$,$\vec{f}_2$,…を受ける際に生じる加速度を$\vec{a}$とすると,次式が成り立つ:

$$m\vec{a} = \underbrace{\vec{f}_1+\vec{f}_2+\cdots}_\text{注目物体が受ける力}~.$$

ここで,質量は,物体に固有の動かしにくさ(慣性)を表す.

力のSI単位は,N(ニュートン)を用いる.$\mathrm{N=kg\cdot m/s^2}$である.

運動方程式により,物体が受ける力を調べれば,物体の運動が変化していく様子が理解できる. そのために,この世界に存在する種々の力のついて学んでいく必要がある.

※※ ここでの「質量」は,「慣性質量」であり,重力の度合いを表す「重力質量」とは概念的には区別されるべきものであるが,まずは気にしなくてよい.

《例》数値例.

◆地表付近での重力

地球の周囲にある物体はすべて,地球の中心に向かって引かれる.この力を重力 (gravity) という.地表付近で質量$m$の物体が受ける重力は,鉛直下向きに大きさ$mg$である.ここで,比例定数$g\simeq 9.8\,\mathrm{m/s^2}$を,(地表における)重力加速度の大きさという.

※ 重力は,元をただせば物体と地球との間の万有引力である.また,地球の自転に伴う遠心力も重力に含める立場もあるが,とりあえず気にしなくてよい.

《例》数値例.

◆ばねの弾性力

ばねを伸縮させると,伸縮を復元しようと(元に戻そうと)する力が生じる.これを弾性力 (elastic force) という.

弾性力は,ばねの伸縮の大きさ$s$に比例する.この事実をフックの法則という.また,比例定数$k$はばねの材質や形状で決まり,ばね定数とよぶ.まとめると,ばね定数$k$のばねの伸縮の大きさが$s$であるときに生じる弾性力は,伸縮を元に戻そうとする向きに,大きさ$ks$である.

※ ばねに限らず,あらゆる物体に弾性力は生じるが,高校物理では主にばね(1次元的な弾性体)のみを扱う.
※ フックの法則は,伸縮が大きくない範囲での近似的な事実である.

《例》数値例.

◆糸の張力・面の垂直抗力

糸が引く力を張力 (tension) という.張力の大きさは未知量でおいておく(文字$T$をよく用いる).

※ 高校物理では,基本的に「伸縮しない糸」を扱う.つまり,糸の伸縮を無視する.
※ 入試用語で,「質量の無視できる糸」のことを「軽い糸」と言うことが多い.摩擦などの糸に平行な方向の力がかかっていない軽い糸の張力の大きさは,至る所で等しい.
※ なぜ未知量でおかなければならないのかは,後に詳しく論じる.

物体同士が,接触面で面に垂直な方向に押しあう力を垂直抗力 (normal force) という(垂直抗力の大きさは未知量でおいておく}(文字$N$をよく用いる).

※ 面に平行な方向の力は摩擦力である.摩擦力は取り扱いが難しいので後回しにする.

◆成分分解

ここまでは一直線上の(1次元的な)運動のみを扱ってきたが,現実の物体は,平面や空間を(2次元・3次元的に)運動する.その場合,速度,加速度や力などはベクトル量となる.高校物理では基本的に,ベクトル量は成分分解して扱う.

※ つまり,ベクトルの幾何学的な性質は重視せず,各成分に対応する数量の組み合わせとして扱う.

◆作用反作用の法則

実在の力は必ず及ぼす力と及ぼされる力の対(作用と反作用)で存在し,それらは互いに逆向きで同じ大きさである.この事実を作用反作用の法則}という(運動の第3法則ということもある).

※ 慣性力(架空の力)には,反作用が存在しない.

◆力の分類

* 公式のある力:重力,弾性力,動摩擦力など
* 未知量でおく力(束縛力):張力,垂直抗力,静止摩擦力など
  ⇒ 束縛条件が必要となる.

※ 束縛条件については,すぐ後に論じる.

§束縛条件と摩擦力

糸の張力や面の垂直抗力も,物体の弾性力に由来すると考えることができるが,糸の伸縮や面の変形が無視できるほど小さい場合には,フックの法則を用いることができない.そこで,力の大きさを未知量でおいておくことになる.力の大きさを未知量でおくことによる代償として,運動への制約を考えること必要になる.そのような制約を束縛条件・拘束条件 (constraint) という.

◆糸による束縛

伸縮しない糸 ⇒ 糸の長さが一定の条件が必要.

◆面による束縛

変形しない面 ⇒ 面が変形しない条件(相対速度が面に平行)が必要.

◆摩擦力

接触する物体間において,接触面に平行な向きに生じる力を摩擦力 (friction) という.摩擦力は,すべりがないときの静止摩擦力と,すべりがあるときの動摩擦力に分けて扱う必要がある.

静止摩擦力は,(垂直抗力と同様に)大きさを未知量でおく.ただし,その大きさには上限があり,上限値は,静止摩擦係数を$\mu$,垂直抗力の大きさを$N$として,$mu N$で与えられる.よって,すべり出さないためには,$\text{(静止摩擦力の大きさ)}<\mu N$の条件が必要である.

動摩擦力は,本来はすべる速さに複雑に依存するが,高校物理では単に$\mu’ N$で一定値と扱ってしまう($\mu’$は動摩擦係数である).

整理すると,次のようになる:

* すべりなし(静止摩擦力) ⇒ 未知量,上限が$\mu N$
* すべりあり(動摩擦力) ⇒ 単に$\mu’ N$

◆摩擦力の向き

§運動の時間追跡

運動方程式と束縛条件を立てられるようになれば,物体の加速度を求められるようになります.その後に出来るべき次の手法を網羅します.

【力と束縛条件を把握した後にすべきこと】
① 運動の時間追跡(位置・速度を時刻の関数として求める)
  ①-a 素朴に積分(v-t図の利用を含む)
  ①-b 微分方程式を解く(単振動,指数関数型の運動)
② エネルギーと仕事の関係式(位置と速度を直接関係づける)

また,仕事の計算パターンは,(とりあえずは)1次元の場合と力が一定の場合のみを押さえればOKです(応用的な考えとしては,仕事をエネルギー収支から逆算することも多い).これらを網羅することで,力学の学習の見通しが立つことでしょう.

続いて,「運動エネルギーと仕事の関係」を「力学的エネルギー保存則」へと展開します.位置エネルギー(potential energy)の意味を捉え,「系(system)」の捉え方を意識することで,複数物体系の取り扱いへ向けた準備にもなります.「(運動エネルギー変化)=(仕事)」や「(力学的エネルギー変化)=(非保存力の仕事)」などで混乱している受験生も,ここでクリアな視界を得てください!

◆時間追跡の基本形①

この章では,運動方程式(と束縛条件)から加速度が求まった後の,運動の時間追跡の手法について学ぶ.なお,運動の時間追跡とは,位置$x$や速度$v$を時刻$t$の関数として表すことである.

$x$軸上の運動において,速度$v$から位置$x$を求める方法を考える.時刻$t=t_1$から$t=t_2$までの間の変位$x(t_2)-x(t_1)$は,時間$\varDelta t$ごとの変位$v\varDelta t$の和に大体等しく,次のように表せる:

$$x(t_2)-x(t_1) \simeq \sum v\varDelta t~.$$

正確には$\varDelta t\to 0$の極限を取らねばならず,次のようになる:

$$x(t_2)-x(t_1) = \int_{t_1}^{t_2}v\,dt~.$$

ここで,記号$\int_{t_1}^{t_2}$は「$t_1$から$t_2$までの間での和をとる」ことを意味し,$dt$は「微小時間(の極限)」を意味するので,$\int_{t_1}^{t_2}v\,dt$は,そのまま「速度×微小時間(すなわち微小変位)の$t_1$から$t_2$までの間での和」と読みたい.

一方で,$\int_{t_1}^{t_2}v\,dt$の計算自体は,数学の定積分の計算を用いればよい.

同様に,加速度から速度変化を求める式は次のようになる:

$$v(t_2)-v(t_1) = \int_{t_1}^{t_2}a\,dt~.$$

※ $\sum$(シグマ),$\int$(インテグラル)の記号は,
和を表すことば(ラテン語のsumma,英語のsum)の頭文字に対応する.
※ 定積分の定義通りの区分求積法的な計算もあるが,物理では微分の逆として公式的に計算すれば充分である.

◆v-tグラフ

$v$-$t$グラフにおいて,次の点を押さえておく.
* 傾き ⇔ 加速度
* 面積 ⇔ 変位

※ 正確には,傾きは,接線の傾きのこと.また,面積は,グラフと$t$軸の挟む部分の符号付き面積のこと.

◆等加速度運動について

$x$軸上の等加速度運動では,次式が成り立つ:

$$v = v(0)+at~,\quad x = x(0)+v(0)t+\frac{1}{2}at^2~.$$

しかし,これを公式として覚えて運用する必要はない.また,等加速度運動では,$v$-$t$グラフの利用が便利}なことが多い.

◆時間追跡の基本形②

加速度$a$が時刻$t$以外の文字(速度$v$や位置$x$)を含む場合,素朴に$t$で積分することはできない.そこで,微分方程式を解くことになるが,高校物理で必要となる微分方程式は,(残念ながら?)次の2つだけである.

* $f'(t)=\gamma f(t)\Longrightarrow f(t)=Ae^{\gamma t}$
* $f”(t)=-\omega^2 f(t)\Longrightarrow f(t)=C\sin (\omega t)+D\cos (\omega t)$

微分方程式$f'(t)=\gamma f(t)$の一般解が$f(t)=Ae^{\gamma t}$であることは証明抜きで認めることにする(十分性は簡単に確認できる).

※ 実際に指数関数型の微分方程式の解を求める入試問題は少ないが,大切な考え方を学ぶために,このような問題が必要である.なお,難関大においては出題がわずかに増加傾向にある.

◆単振動①

微分方程式$f”(t)=-\omega^2 f(t)$の一般解が$f(t)=C\sin (\omega t)+D\cos (\omega t)$であることも証明抜きで認める(やはり,十分性は簡単に確認できる).

◆単振動②

次のように表される運動を単振動という:

$$x = x_0+C\sin (\omega t)+D\cos (\omega t)~.$$

三角関数の合成を用いて,次のように表すこともできる:

$$x = x_0+A\sin (\omega t+\phi)~.$$

$\omega$を角振動数といい,$x_0$は振動中心の位置を表す.振動中心は力がつりあう位置と一致する.

また,振動中心からの最大の変位の大きさ$A=\sqrt{C^2+D^2}$を振幅という.

周期,すなわち1回の振動(1往復)の要する時間は,次式となる:

$$T = \frac{2\pi}{\omega}~.$$

◆時間追跡のまとめ

* 等加速度 ⇒ $v$-$t$グラフを利用
* $a$が$t$のみに依る ⇒ 素朴に積分(基本形)
* 上記以外 ⇒ 微分方程式を解く(指数関数型/単振動型)

※ 時間追跡できない運動は,エネルギー的に扱うしかなくなる.

§力学的エネルギー

◆運動エネルギー・仕事の導入

$x$軸上を一定の力$F$を受けて動く物体(質量$m$)の運動を考える.初期条件を$x(0)=0$,$v(0)=0$として時間追跡すると,

$$v = \frac{F}{m}t~,\quad x = \frac{F}{2m}t^2$$

となる.これらから$t$を消去すれば,次式を得る:

$$\frac{1}{2}mv^2 = Fx~.$$

この式は,時刻$t$を含まない位置$x$と速度$v$との間の関係式となっており,一般に仕事と運動エネルギーの関係とよばれるものの一例である.この章では,仕事と運動エネルギーについて学んでいく.

◆運動エネルギー

質量$m$の物体が速度$\vec{v}$で運動しているとき,この物体が持っている運動エネルギー (kinetic energy) を次式で定義する:

$$K = \frac{1}{2}m|\vec{v}|^2~.$$

ここで,$|\vec{v}| = \sqrt{v_x{}^2+x_y{}^2+v_z{}^2}$は速度の大きさ(速さ)を意味する.

エネルギーや仕事のSI単位はJ(ジュール)を用いる.$\mathrm{J=N\cdot m=kg\cdot m^2/s^2}$である.

◆仕事

物体が位置$\vec{r}_1$から$\vec{r}_2$まで動く間に力$\vec{F}$によってされる仕事 (work)を,次式で定義する:

$$W = \int_{\vec{r}_1}^{\vec{r}_2}\vec{F}\cdot d\vec{r}~.$$

※ この積分は,始点と終点の位置のみでなく途中経路にも依存する.

一般の場合の仕事の計算は高校範囲外であり,入試で問われるのは次に示す2つの場合に限られる.

1次元の場合には,力の$x$成分を単に$F$と書いて,次のようになる:

$$W = \underbrace{\int_{x_1}^{x_2}F\,dx}_\text{$F$-$x$図の面積}~.$$

また,力$\vec{F}$が一定である場合には,変位ベクトルを$\vec{L}=\vec{r}_2-\vec{r}_1$として,次のようになる:

$$W = \vec{F}\cdot\vec{L} = \text{(力の変位方向の成分)}\times\text{(変位の大きさ)}~.$$

となる.

◆運動エネルギーと仕事の関係

一般に,物体の運動エネルギーの変化は,物体が受けている力(合力)からされた仕事に等しい.この事実により,位置と速度の間に,時刻を含まない関係式を作ることができる.

なお,物体が複数の力$\vec{F}_1,~\vec{F}_2,~\cdots$を受けているとき,

$$\int_{\vec{r}_1}^{\vec{r}_2}(\vec{F}_1+\vec{F}_2+\cdots )\cdot d\vec{r}=  \int_{\vec{r}_1}^{\vec{r}_2}\vec{F}_1\cdot d\vec{r}+ \int_{\vec{r}_1}^{\vec{r}_2}\vec{F}_2\cdot d\vec{r}+\cdots$$

ゆえ,合力の仕事は,個々の力の仕事の和と等しい.

◆位置エネルギーの導入

ここではエネルギーを拡張し,物体の持つ運動エネルギーの他に,各力に応じた位置エネルギー (potential energy) を導入する.

運動エネルギーと位置エネルギーを総称して力学的エネルギー (mechanical energy)とよぶ.

※ 位置エネルギーは,力を及ぼすモノ自体が潜在的に (potentially) 蓄えてるエネルギーである.

◆ばねの弾性エネルギー

伸縮しているばねは内部にエネルギーを蓄える.これを弾性エネルギー (elastic energy) という.ばね定数$k$のばねの弾性エネルギーは,次式に従う:

$$U_\mathrm{el} = \frac{1}{2}k\times\text{(伸縮量)}^2~.$$

※ 弾性エネルギーの「公式」がこうなるということは,仕事と運動エネルギーの関係と力学的エネルギー保存則が同じ結果を導くことで正当化される.

◆重力の位置エネルギー

地表付近にある物体が受ける重力の位置エネルギーは,次式に従う:

$$U_\mathrm{g} = mg\times\text{(基準からの高さ)}$$

高さの基準は任意の位置に定めてよい.

※ 重力の位置エネルギーの「公式」がこうなるということは,仕事と運動エネルギーの関係と力学的エネルギー保存則が同じ結果を導くことで正当化される.
※ 重力の位置エネルギーは,本来は重力を伝える空間,すなわち物体と地球との間の重力場に蓄えられるが,とりあえずは,物体自身が持っているエネルギーと思っておいてもよい(地球を不動とみなした計算をする限りでは,そのように考えても差支えはない).

◆動摩擦力の仕事

動摩擦力の位置エネルギーは定義することができない.実際,動摩擦力の仕事は常に負になり,力学的エネルギーを一方的に減少させる.

※ 動摩擦力は非保存力であり,数学的には仕事が始点と終点のみで決まらず経路に依存して変わる.このことについて,本講座では深く触れない.

◆力学的エネルギーのまとめ

一般に,注目している系の力学的エネルギー変化は,外部からされた仕事に等しい.ここで,何を系と見ているのか(系の構成要素は何か)を明確にすることが大事である.

なお,力学的エネルギーは,運動エネルギーと位置エネルギーからなるが,位置エネルギーの「公式」は,高校物理では,弾性力,地表付近の重力,質点間の万有引力,点電荷間のクーロン力の4つしか扱わない.

※ 動摩擦力は非保存力ゆえ,位置エネルギーがそもそも存在しない.一方,浮力は保存力ゆえ,本来的には位置エネルギーが定義できるが,高校物理では(明示的には)扱わない.

§円運動

円運動について扱います.等速円運動と非等速円運動の代表例を押さえておけば充分であり,内容自体は特に難しくありません.しかしながら,実践的な演習に向けて,入試物理の中での円運動の位置づけを理解しておくことが大切になってきます.

§複数物体系の基本

初心者と中級者の間で差がつきやすい「複数物体系の運動」の保存則(運動量・エネルギー)を用いた取り扱いを徹底します.

◆導入と整理

複数の物体の連動した運動では,個々の運動が簡単に追跡できる場合をを除き,全体で1つの系と見て,運動量と力学的エネルギーの保存則で扱うのが基本となる.

なお,個々の運動が簡単に追跡できる場合は,運動方程式と束縛条件があまり複雑な形をしておらず,個々の運動が等加速度運動か単振動に帰着できるような場合である.

※ 重心の運動に注目して時間追跡するパターンもあるが,それは後に扱う.

◆運動量保存則

外力を受けない系の運動量は保存する.この事実を運動量保存則という.

$x$軸上で,互いに力を及ぼしあう2物体(質量$m_1$,$m_2$)の運動を考える.$m_1$の受ける力を$-f$とすれば,個々の運動方程式は次のようになる:

$$ \begin{cases} m_1\dfrac{dv_1}{dt} = -f~,\\[0.5em] m_2\dfrac{dv_2}{dt} = +f~. \end{cases} $$

これらの辺々の和をとると,次のようになる:

$$ \frac{d}{dt}(m_1v_1+m_2v_2) = 0 \qquad\therefore~ m_1v_1+m_2v_2 = \text{const.} $$

つまり,外力を受けない系の運動量は保存する.なお,2次元,3次元の場合でも,成分ごとに議論することができる.

◆弾性力による相互作用

$x$軸上で,ばね(ばね定数$k$,自然長$\ell$)を介して力を及ぼしあう2物体(質量$m_1$,$m_2$)の運動を考える.

ばねの縮みを$y=\ell -(x_2-x_1)$とすれば,個々の運動方程式は,次のようになる:

$$\begin{cases}m_1\dfrac{dv_1}{dt} = -ky\quad\cdots\text{①}~,\\[0.5em]m_2\dfrac{dv_2}{dt} = +ky\quad\cdots\text{②}~.\end{cases}$$

となる.これは連立微分方程式となり,解けない(重心運動に注目する解法については後に扱う).そこで,別の手立てを考える必要がある.全体(2物体とばね)で1つの系と見れば,運動量保存則より,

$$m_1v_1+m_2v_2 = \text{const.}\quad\cdots\text{③}$$

であり(このことは$\text{①}+\text{②}$からすぐに示せる),力学的エネルギー保存則より,

$$\frac{1}{2}m_1v_1{}^2+\frac{1}{2}m_1v_1{}^2+\frac{1}{2}ky^2 = \text{const.}\quad\cdots\text{④}$$

である.ここで,④の左辺を$E$とおくと,

$$\frac{dE}{dt} = m_1v_1\frac{dv_1}{dt}+m_2v_2\frac{dv_2}{dt}+ky\frac{dy}{dt}$$

となるが,①,②を代入して,$\frac{dy}{dt}=-v_1+v_2$を用いれば,$\frac{dE}{dt}=0$であることが確認できる.

◆垂直抗力を介した相互作用

変形しない面での垂直抗力の仕事は,全体として相殺する.

◆動摩擦力による相互作用

動摩擦力の仕事は全体として負となる.すなわち,動摩擦力が及んでいる系全体で考えれば,力学的エネルギーを必ず減少させる.

※ その分,熱が発生する.この熱を摩擦熱 (frictional heat)という.熱の定義については,熱力学分野で学ぶ.

§衝突

◆導入と整理

【衝突の取り扱い】
* 外力を受けていない方向の運動量保存則
* 問題文で与えられた条件

衝突について考えよう.衝突とは,2物体が撃力を通じて相互作用する現象である.衝突時であっても,外力がない方向の系の運動量は保存する.一方で,撃力が働く際は一般に,力学的エネルギーがどうなるかは不明になってしまう.よって,衝突の問題では,必ず何かしらの条件が与えられることになり,その条件を読み取って問題を解かなければならない.

※ 撃力=瞬間的に働く非常に大きい力.
※ 仕事や位置エネルギーなどの議論では,力の詳細な情報が必要となるが,撃力の詳細は不明である.
※ 与えられる条件としては,衝突後の速度や相対速度に関わる情報やはね返り係数の値などがある.
※※ 撃力を正確にモデル化すると,無限小時間に無限大の大きさで働くが,力積が有限にとどまるような力となる.
※※ つまり,衝突現象を扱うには,何かしらからのモデルの設定が必要で,それが明示されなければ問題として成立しなくなってしまう.

◆はね返り係数

衝突のはね返り係数を$e$とすると,衝突の前後で,相対速度の向きが逆転し,大きさが$e$倍になる――つまり,相対速度が$-e$倍になる――.

ただし,斜めの(2次元的な)衝突では,相対速度の衝突面に垂直な方向の成分のみを抜き出して扱う.

◆衝突によるエネルギー損失

一般に,衝突によって系の力学的エネルギーは減少する.

一方で,系の力学的エネルギーが保存するような(特殊な)衝突を弾性衝突と呼ぶ.

はね返り係数(反発係数)$e$の値で場合分けすると次のようになる:

* $e=1$:力学的エネルギーが保存する(弾性衝突).
* $0\leqq e < 1$:力学的エネルギーが減少する(非弾性衝突).

※ 特に$e=0$の場合を,完全非弾性衝突と呼ぶこともある.