§ ヒヨコ向けゆる説明
解説動画
【MENU】
00:00 はじめに
02:13 エネルギー変化の符号
04:21 エネルギーの増減と熱のやりとり
08:30 エンタルピーのゆる説明
17:39 エンタルピー変化を付した化学反応式の例
END 28:54
◆ エネルギー変化の符号
ある量の変化量を考える際には,必ずあとの量からまえの量を引く.よって,変化量が正のときは増加,負のときは減少となる.
例えば,エネルギーが$E_\text{まえ}$から$E_\text{あと}$へと変化したとき,エネルギー変化(エネルギーの変化量)$\varDelta E$は,
$$\varDelta E = E_\text{あと}-E_\text{まえ}$$となる.
エネルギー変化が正であること($\varDelta E>0$)は,エネルギーが増加したこと($E_\text{あと}>E_\text{まえ}$)を意味する.また,エネルギー変化が負であること$\varDelta E<0$は,エネルギーが減少する($E_\text{あと}<E_\text{まえ}$)ことを意味する.
◆ エネルギーの増減と熱のやりとり
注目している系が,熱という形態で外界とエネルギーをやりとりすることを考えよう.
系のエネルギーが増加する場合,系はそのエネルギーを外界から得なければいけない.すなわち,系は外界から熱を吸収する(吸熱).
一方で,系のエネルギーが減少する場合,系は余分なエネルギーを外界へ捨てなければならない.すなわち,系は外界へ熱を放出する(放熱).
※ エネルギーのやりとりは,熱以外にも仕事や光などの形態でも行われることもある.
【Check】
系のエネルギーが増加するとき,吸熱 / 放熱?
系はエネルギーが増えた分,外界から熱を吸収する(吸熱).
系のエネルギーが減少するとき,吸熱 / 放熱?
系のエネルギー減った分が,熱として外界へと放出される(放熱).
系が吸熱するとき,エネルギーは,増加 / 減少?
熱を吸収した分だけ,系のエネルギーは増加する.
系が放熱するとき,エネルギーは,増加 / 減少?
熱を放出した分だけ,系のエネルギーは減少する.
◆ エンタルピーのゆる説明
化学変化を論じる際には,通常,一定圧力・一定温度の条件下でなされる.その条件下で物質系(反応物や生成物)が持つエネルギーを論じる際に,便利なようにエネルギー概念を拡張した量がエンタルピーである.さしあたり,エンタルピーとは,化学変化の際の系のエネルギー変化を論じるための便利な量くらいの認識でよい.
※ 化学変化におけるエンタルピーの増減と吸熱・放熱の関係をマスターした後で,エンタルピーとは何かを再度学べばよい.
ある物質系の化学変化において,まえの状態(反応物)のエンタルピーを$H_\text{まえ}$,あとの状態(生成物)のエンタルピーを$H_\text{あと}$とすれば,エンタルピー変化は$\varDelta H = H_\text{あと}-H_\text{まえ}$である.
まず,エンタルピー変化が負の場合($\varDelta H<0$,$H_\text{あと}<H_\text{まえ}$,エンタルピーが減少)を考えよう.このとき,系はエネルギー的に高い状態から低い状態へ下がり,その分のエネルギーを熱という形で放出する.
一方で,エンタルピー変化が正の場合($\varDelta H>0$,$H_\text{あと}>H_\text{まえ}$,エンタルピーが増加),系はエネルギー的に低い状態から高い状態へ上がり,その分のエネルギーを熱という形で吸収する.
※ 化学変化では,反応前後の状態で物質系の持つエネルギーが変化し,系はそのエネルギーの差に応じた量のエネルギーを外界とやり取りする.このやり取りでは,主に熱と仕事が関与する(光などが関与することもある).ここで,「仕事」とは,物質が膨張・収縮する際に外界を押し引きすることによるエネルギーのやり取りのことである.つまり,化学変化における熱の移動量を考える際には,物質が持つエネルギーの変化だけでなく,体積変化に伴う仕事量も考慮に入れる必要がある.これを自動的に計算に含めることができる量がエンタルピーである.簡単に言えば,エンタルピーとはエネルギー概念にある種の拡張を加えた状態量であり,定圧過程の議論では特に便利な量である.
【Check】
$\varDelta H>0$のとき,吸熱 / 放熱?
系はエネルギーが増えた分,外界から熱を吸収する(吸熱).
$\varDelta H<0$のとき,吸熱 / 放熱?
系のエネルギーが減った分が,熱として外界へと放出される(放熱).
吸熱のとき,$\varDelta H$の符号は?
熱を吸収した分だけ,系のエンタルピーは増加する($\varDelta H$は正).
放熱のとき,$\varDelta H$の符号は?
熱を放出した分だけ,系のエンタルピーは減少する($\varDelta H$は負).
◆ エンタルピー変化を付した化学反応式
水素と酸素から水が生じる反応は,エンタルピー変化を付すと次のように書かれる:
$$\ce{H2(気) + \dfrac{1}{2}O2(気) -> H2O(液)}\quad\varDelta H=-286\,\text{kJ}$$
これは,1モルの水素(気体)と1/2モルの酸素(気体)が反応して水(液体)が生じる際に系のエンタルピーが減少し,その分に対応する$286\,\text{kJ}$の熱が発生することを表す.
窒素と酸素から一酸化窒素が生じる反応は,エンタルピー変化を付すと次のように書かれる:
$$\ce{N2(気) + O2(気) -> 2NO(気)}\quad\varDelta H=180\,\text{kJ}$$
これは,1モルの窒素(気体)と1モルの酸素(気体)が反応して2モルの一酸化窒素(気体)が生成する際に系のエンタルピーが増加し,その分に対応する$180\,\text{kJ}$の熱が吸収されることを表している.
なお,旧「熱化学方程式」ではそれぞれ次のように書かれていた:
$$\ce{H2(気) + \dfrac{1}{2}O2(気) = H2O(液)}+286\,\text{kJ}$$
$$\ce{N2(気) + O2(気) = 2NO(気)}-180\,\text{kJ}$$
※ エンタルピー変化は,化学変化を起こす系に注目して議論するが,旧「熱化学方程式」では,外界が熱を受け取るとき(系が熱を放出するとき)を正としていたのである.
【Check】
「熱化学方程式」と「エンタルピー変化を付した化学反応式」を互いに書き換えよ.
$\ce{H2(気) + \dfrac{1}{2}O2(気) = H2O(液)}+286\,\text{kJ}$
$\ce{H2(気) + \dfrac{1}{2}O2(気) -> H2O(液)}\quad\varDelta H=-286\,\text{kJ}$
$\ce{N2(気) + O2(気) = 2NO(気)}-180\,\text{kJ}$
$\ce{N2(気) + O2(気) -> 2NO(気)}\quad\varDelta H=180\,\text{kJ}$
$\ce{C(黒鉛) + 2S(固) -> CS2(液)}\quad\varDelta H=89.7\,\text{kJ}$
$\ce{C(黒鉛) + 2S(固) = CS2(液)} -89.7\,\text{kJ}$
$\ce{C(黒鉛) + 2H2(気) -> CH4(気)}\quad\varDelta H=-74.9\,\text{kJ}$
$\ce{C(黒鉛) + 2H2(気) = CH4(気)} + 74.9\,\text{kJ}$
§ アオサギ向けガチ説明
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00:00 はじめに
01:05 エンタルピーの定義
15:15 エンタルピーの解釈
25:32 化学変化への応用
48:17 おわりに
END 51:15
◆ エンタルピーの定義と化学への応用
エンタルピーは,熱力学で用いられる状態量であり,系のエネルギー的な状態を表す指標のひとつである.
※ エンタルピーは,エントロピーとは直接関係のない別の量である.
注目している系のエンタルピー$H$は,系の内部エネルギー$U$,圧力$P$,体積$V$を用いて次式で定義される:
$$H = U + PV~.$$
特に,定圧過程においては次式のようになる:
$$\varDelta H = \varDelta U+P\varDelta V$$
つまり,定圧過程においては,エンタルピー変化が系の吸熱量を表す.
※ 定圧条件下において,エンタルピーは,物質系の内部エネルギーと容器の位置エネルギーの合計,つまり系全体のエネルギーと解釈することができる.この解釈をとれば,エンタルピー変化が系の吸熱量を表すことは明らかである.
◆ 化学反応とエンタルピー
化学変化の前後での物質系のエンタルピー変化を$\varDelta H = H_\text{あと}-H_\text{まえ}$とする.
※ エンタルピー変化は,反応物と生成物の状態(気体・液体・固体)や温度・圧力などの条件によって異なる.特にことわりがない場合,エンタルピー変化を示す際には,25℃,1気圧=1013hPaにおける値を用いるのが慣例である.
$\varDelta H<0$の場合,系の吸熱量が負となり,発熱反応となる.これは,系がエネルギー的に高い状態から低い状態へ下がり,余分なエネルギーを熱という形で放出したと理解することができる.
※ 正確には,内部エネルギーの減少分と外界からされた仕事の和(つまりエンタルピー減少)に等しい熱を放出する.
※ この反応は自然に進行しやすく,一般に反応は自発的である.
$\varDelta H>0$の場合,系の吸熱量が正となり,吸熱反応となる.これは,系がエネルギー的に低い状態から高い状態へ向かうために,エネルギーを熱という形で吸収したと理解することができる.
※ 正確には,内部エネルギーの増加分と外界へする仕事の和(つまりエンタルピー増加)に等しい熱を吸収する.
※ このタイプの反応は外部からのエネルギー供給が必要であり,多くの場合,反応を継続させるために熱や光などの形でエネルギーを加え続ける必要がある.
◆ エンタルピー変化を付した化学反応式
化学反応式にエンタルピー変化$\varDelta H$を付記することで,反応での熱の出入りを表す.
発熱反応の例:水の生成
$$\ce{H2(g) + \dfrac{1}{2}O2(g) -> H2O(l)}\quad\varDelta H=-286\,\text{kJ}$$
この式は,1モルの水素と1/2モルの酸素が化合して1モルの水が生成する際のエンタルピー変化が$\varDelta H=-286\,\text{kJ}$であり,$286\,\text{kJ}$の熱が放出されることを表している.
旧「熱化学方程式」では:
$$\ce{H2(g) + \dfrac{1}{2}O2(g) = H2O(l)}+286\,\text{kJ}$$
吸熱反応の例:一酸化窒素の生成
$$\ce{N2(g) + O2(g) -> 2NO(g)}\quad\varDelta H=180\,\text{kJ}$$
この式は,1モルの窒素と1モルの酸素が化合して2モルの一酸化窒素が生成する際のエンタルピー変化が$\varDelta H=180\,\text{kJ}$であり,$180\,\text{kJ}$の熱を吸収することを表している.
旧「熱化学方程式」では:
$$\ce{N2(g) + O2(g) = 2NO(g)}-180\,\text{kJ}$$
このように,エンタルピー変化を付した化学反応式を使用することで,反応に伴う熱の出入りを定量的に表現することができる.
また,エンタルピー図を用いて示すとよい.反応に伴うエネルギーの変化を視覚的に理解することができる.
※ 以前は「エネルギー図」と呼ばれていたが不正確な表現であった.
※ エンタルピー変化の数値は文献による若干異なる場合がある.