【化学新課程対策】変更点まとめ

2025年度入試より適用される高校化学の新課程について,特に旧課程を学んだ上で新課程の入試を受験する既卒者向けに,変更点を解説します.新課程で学んでいる現役高校生が過去問などに取り組む際の参考にもなるはずです.

教科書によって表記に揺れが見られる用語も存在します.旧課程時に既に新しい用語が導入されていたり,新課程になっても導入されていない例もあります.本稿は,数研出版の検定教科書を中心に,啓林館や東京書籍のものも参照して書かれています,また,新しい用語を導入すべき理由については,日本化学会の化学用語検討小委員による報告「高等学校化学で用いる用語に関する提案(1)」,「高等学校化学で用いる用語に関する提案(2)」を参考にしています.

※ 表記の揺れが見られる用語については,大学入試では併記するなどの配慮がなされるであろうため,過度な心配は不要でしょう.
※ 本文中に添えたページ数は数研出版の検定教科書『化学基礎』および『化学』で初出の箇所を指します.
※ 本稿は,東大ばけ卒・元化学メーカー勤務の某氏に監修を依頼し,笠原が執筆しました.

解説動画

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00:00 はじめに
03:12 特に注意すべき変更点
09:44 その他の変更点
24:07 おわりに
END 25:24

遷移元素

3〜12族元素の総称を遷移元素とする.旧課程では,3〜11族元素を遷移元素とし,12族元素は典型元素に分類していた.[化学基礎p.54]

※ 遷移元素の大雑把な定義は,その原子がd軌道に電子を持つことである.しかし,12族元素はd軌道が完全に満たされているため,3〜11族元素と異なる性質を持つ面も多く,遷移元素から除く立場もある.

アルカリ土類金属

2族元素のすべてをアルカリ土類金属元素とする.旧課程ではBeとMgを除いていた.[化学基礎p.56]

※ BeとMgは,Ca以降のアルカリ土類金属元素と比べて反応性が低いなどの違いがあるため,アルカリ土類金属元素とは区別して扱われることもある.

エンタルピー変化

熱化学方程式を廃止し,化学反応式にエンタルピー変化を併記する.熱化学方程式の右辺の熱量は,注目している系の放熱量(外界が受け取る熱量)を表していた.一方で,エンタルピー変化は系の吸熱量を表していることに注意する.

こちらについては別記事で詳述する.[化学p.91]

【化学基礎】

六方最密構造(六方最密充填構造):六方最密充填という用語も見られたが止める.[p.10]

凝華:固体→気体を昇華,気体→固体を凝華と区別する.以前は,気体→固体も昇華と呼んでいた.[p.38]

貴ガス: 高校化学では希ガス (rare gas) が定着していたが,より正確で正式な用語である貴ガス (noble gas) に改める.[p.47]

イオンを表す化学式:イオン式という用語は不使用を推奨.単に「化学式」とか「イオンを表す化学式」などと表現する.[p.51]

結合を表す線:構造式において結合を表す線に用いていた価標という用語は不使用を推奨.[p.67]

共有結合結晶(共有結合の結晶):共有結晶という用語も見られたが止める.[p.82]

標準状態:標準状態という用語は用いず,温度と圧力を明示することを推奨.[p.107]

※ 現状では,標準状態の定義に統一性がないため.
※ 数研出版の教科書では,$0\,{}^{\circ}\text{C}$,$1.013\times 10^5\,\text{Pa}$の状態について「本書ではこの状態を標準状態とよぶ」としている.入試では,温度・圧力が明示されるだろう.

定比例の法則一定組成の法則):どちらの名称も用いる.[p.132]

※ 化合物を構成する元素の質量比が一定であること.

倍数比例の法則倍数組成の法則):どちらの名称も用いる.[p.132]

※ 2つの元素が複数の化合物を形成する場合,一方の元素の質量が一定のとき,他方の元素の質量は互いに整数比をなすこと.

気体反応の法則反応体積比の法則):どちらの名称も用いる.[p.133]

※ 気体の化学反応において,反応物と生成物の体積比(同温・同圧)が簡単な整数比になること.

化合:高校以降では,化合と分解の二分法を強調する理由がないため用いない.

※ 化合物という用語は用いる.

絶対質量:単に質量でよい.「相対質量」との対比で生まれた用語と推定されるが必要ない.

【化学】

沸点上昇凝固点降下:沸点が上昇する現象を「沸点上昇」,それによる温度変化を「沸点上昇度」と区別してきたが,いずれも「沸点上昇」で統一する.凝固点降下についても同様.[p.70]

水酸化鉄(III):一定の組成で安定に存在できる物質ではないことが分かったため,3価の弱塩基として扱うことを止める.(正電荷を帯びる)コロイド溶液や沈殿としては扱う.[p.82,p.244]

遷移状態:反応物が活性化エネルギー以上のエネルギーを得ている状態を「遷移状態」と呼ぶ.日本の高校教科書の独自用語である「活性化状態」は推奨されない.[p.146]

化学平衡の法則質量作用の法則という用語が用いられていたが止める.[p.155]

※ 化学平衡において平衡定数をモル濃度で表す法則.

両性元素両性という用語は,物質に対して使用される(両性金属,両性酸化物,両性水酸化物).両性元素は用いない.[p.196]

二酸化マンガン酸化マンガン(IV):中学では前者,高校では後者が用いられていたが,どちらも正しいので併記してよい.[p.201]

溶融塩電解:融解塩電解という用語も見られたが,原則として溶融塩電解を用いる.[p.227]

※ 固体が液体に変わる変化を一般に融解という.一方で,特に金属や鉱石などが高温で融解する現象を溶融という.

ホルミル基:官能基$\ce{-CH=O}$の正式名称はホルミル基である.アルデヒド基という用語は推奨されない.[p.272]

カルボニル基:官能基$\ce{>C=O}$の正式名称はカルボニル基である.ケトン基という用語も見られるが推奨されない.[p.272]

シス-トランス異性体:幾何異性体という用語もあるが,シス-トランス異性体で統一する.[p.289]

※ 高校化学では,幾何異性体のうちシス-トランス異性体しか扱わないが混乱が見られるため.

鏡像異性体:光学異性体ともよばれるが,定義が不明確で時代遅れの用語であるため推奨されない.[p.316]

電子式:大学以降では用いない用語であるため廃止すべき.正式名称は「ルイスの記号」や「ルイス構造」だが高校化学で導入する必要はなかろう.

イオン反応式:イオンを含む反応式に特別な名称をつけることを止めるべき.

イオンの価数:電荷の絶対値を表すに過ぎず,利用しない.電荷(電気素量を単位とした量)で充分であろう.

※ 酸塩基の価数は別.

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