【共テ物理】H30試行調査 – 分析と解説

#共通テスト #物理 #平成30年度試行調査 #くにごろう #JUKEN7

◆ 第1問

[問1]⑦

地球上と月面上という重力加速度の異なる場所での水平投射について,基準到達時の運動エネルギーを比較する.力学的エネルギー保存則で考えるだけ.

基準到達時の運動エネルギーは,地球では$K_1 = \dfrac{1}{2}mv^2 + mgh$であり,月面では$K_2 = \dfrac{1}{2}mv^2 + m\dfrac{g}{6}h$である.よって, \[ K_1 – K_2 = \dfrac{5}{6}mgh~. \]

[問2]①* / ③**

等速度運動する物体からの落下物の軌道を選ぶ.重力だけを受けて落下することは明らかであり,後は初速度を正しく把握することが肝要.続いて,重力を受けつつも等速度運動する物体に働く力を考察する.

各物資の切り離し時の初速度はどれも宇宙船の速度と等しく,切り離し後の各物資の運動は,水平投射時の放物運動となる.よって,軌跡はその形状からアかエに絞られるが,水平方向の運動に注目すれば,どの物資も水平位置は等しくなることが分かるので,アが正しい.余計な情報を捨象し,「要は水平投射の問題である」と思えるかどうか.

宇宙船は等速度運動(等速直線運動)をしているため,受けている力がつりあっている.重力とつりあうような上向きの力を得るためには,ガスを下向きに噴射していると考えられる.

※ 実際の宇宙船の動作を知っていると実は不自然にも思える設定である…

[問3]②** / ④ / ①***

#思考力 #定性評価

熱力学の基本と例外について問う.まずは,ピストンのつりあいから気体の圧力を決める.栓を開けた後は,気体は非平衡状態を経つつ拡散するため,全体のエネルギー収支を考えてゆく.

ピストンのつりあいより,気体の圧力は$P=\dfrac{mg}{S}$である.よって,状態方程式より, \[ P\cdot Sh = nRT \qquad\therefore~ mgh = nRT~. \]

※ 選択肢に囚われてしまうと,エネルギー保存則を想像してしまうかもしれない.いつでも基礎的思考に立ち戻って.

定性的には,重力によって仕事をされた分だけ系のエネルギーが増え,気体の温度が上昇すると言える.なお,定量計算することもできる.終状態での温度を$T^*$とすれば,気体とピストンからなる系のエネルギー収支より, \[ \frac{3}{2}nRT^* – \frac{3}{2}nRT = mg\cdot h \qquad\therefore~ T^* = \frac{5}{3}T~. \] もしくは,重力場まで含めた系に注目し,気体の内部エネルギーと重力の位置エネルギーの合計が保存すると考えてもよい: \[ \frac{3}{2}nRT^* = \frac{3}{2}nRT + mgh~. \]

※ 気体は非平衡状態を経るため,気体がピストンから仕事をされるという表現は微妙な感じがする…

[問4]④,⑤***

#応用力

Aから様々な方向に出る光線の経路を調べたい.まず,代表的な光線を作図し,それを手がかりに考えていく.

Aから出てレンズの中心を通る光線,およびFを通る光線を作図することにより,Aの実像の位置が分かる.Aから様々な方向に出てレンズを通った光線は,その実像の位置を通るはずであることから,各光線の経路を作図することができる.その結果から,光が届き得る場所が分かる.

[問5]①⓪①***

原子から放出される光子についての基本的な問題.しかしながら,正答率は非常に低かった.

$E$は,$n=2$の状態から$n=1$の状態への遷移時に放出される光子のエネルギーであるから,それらの状態のエネルギー準位の差に等しい.よって, \[ E = E_2 – E_1 = -\frac{13.6}{4}\,\mathrm{eV} – (-13.6\,\mathrm{eV}) = \frac{3}{4}\times 13.6\,\mathrm{eV} = 10.2\,\mathrm{eV} \] より, \[ E \simeq 1.0\times 10^1\,\mathrm{eV}~. \]

※ このような数値穴埋めタイプの計算問題は,センター物理になかった新しい形式である(だからなんだ…とは思いますが).

◆ 第2問A

一直線上の衝突.運動量保存則と問題文で与えられた条件(本問では,はね返り係数が$e$であること)を連立する.また,力の平均値は,力積を力の作用時間で割ったものである.Aが受けた力積は,定義通りに求めることはできず,Aの運動量変化から逆算する.

[問1]⑥

衝突後の各速度を$v_\mathrm{A}$,$v_\mathrm{B}$とする. 運動量保存則,およびはね返り係数が$e$であることより, \[ \begin{cases} mv_\mathrm{A}+mv_\mathrm{B} = m(-v) + mv~,\\ v_\mathrm{A}-v_\mathrm{B} = -e(-v-v) \end{cases} \qquad\therefore~ \begin{cases} v_\mathrm{A}+v_\mathrm{B} = 0~,\\ v_\mathrm{A}-v_\mathrm{B} = 2ev~. \end{cases} \] よって, \[ v_\mathrm{A} = +ev~,\quad v_\mathrm{B} = -ev~. \]

[問2]⑧*

Aがうけた力積を$I_\mathrm{A}$とすれば,Aが受けた力の平均値は, \[ \overline{F_\mathrm{A}} = \frac{I_\mathrm{A}}{\Delta t} \] で定義される. また,Aについての運動量と力積の関係より, \[ mv_\mathrm{A} – m(-v) = I_\mathrm{A} \qquad\therefore~ I_\mathrm{A} = (1+e)mv~. \] よって, \[ \overline{F_\mathrm{A}} = \frac{(1+e)mv}{\Delta t}~. \]

◆ 第2問B

台車の衝突実験についての問題であるが,第2問Aでの計算結果が流用できるように作られている.$F$-$t$グラフの面積が力積を表し,運動量変化が受けた力積に等しいことを利用して計算を進めていく.問5では,初期条件が変わるが,ここまでの考えをもう一度くり返せばよい.

[問3]③* / ②

#グラフ処理 #ザックリ捉える

グラフ上の面積を三角形で近似する考え方は,受験生は慣れなかったはず.ただ,そこまで正答率は低くなかったようである(選択肢から逆算して想像がついたのだろうか?).

第2問2で定義した量を流用すれば,$S = I_\mathrm{A}$である. ここでは,弾性衝突を仮定するので,$e=1$であり, \[ S = (1+e)mv = 2mv~. \] また,$S$を,底辺$\Delta t$,高さ$f$の三角形の面積で近似して, \[ S \simeq \frac{1}{2}f\Delta t~. \]

[問4]②*

$f\simeq 44\mathrm{N}$,$\varDelta t = 15.0\times 10^{-3}\,\mathrm{s}$ゆえ, \[ S \simeq {22}{N}\times 15.0\times 10^{-3}\,\mathrm{s}~. \] また,$S=2mv$,$m=1.1\,\mathrm{kg}$であるから, \[ v = {0.15}\,\mathrm{m/s}~. \]

[問5]①**

この場合の衝突後の各速度を$v_\mathrm{A}^\prime$,$v_\mathrm{B}^\prime$とすれば, \[ \begin{cases} mv_\mathrm{A}^\prime + mv_\mathrm{B}^\prime = m\cdot 0 + m\cdot 2v~,\\ v_\mathrm{A}^\prime – v_\mathrm{B}^\prime = -e(0-2v) \end{cases} \qquad\therefore~ v_\mathrm{A}^\prime = (1+e)v~,\quad v_\mathrm{B}^\prime = (1-e)v~. \] よって,この場合にAが受ける力積は, \[ I_\mathrm{A}^\prime = mv_\mathrm{A}^\prime – m\cdot 0 = (1+e)mv \] となり,$I_\mathrm{A}$に等しい. よって,受ける力も前の場合と類似すると推測される.

※ 一定速度$v$で動く座標系(慣性系である)からこの衝突を見れば,問4までの場合と全く同じに見える.よって,力積がこのようになることは明らか,と言うこともできるが…

◆ 第3問A

薄膜での光の干渉に関する典型的設定の基本問題.

[問1]⑧

強めあう条件は, \[ \frac{2\pi }{\lambda/n}\cdot 2d + \pi = 2m^\prime\pi ~\Longleftrightarrow~ n \cdot 2d = \left( m^\prime-\frac{1}{2} \right)\lambda~. \] ここで,$m^\prime = 1\,,~2\,,~3\,,\cdots$である. なお,$m = 0\,,~1\,,~2\,,\cdots$を用いて, $n \cdot 2d = \left( m+\dfrac{1}{2} \right)\lambda$と言っても同じことである.

[問2]④ / ③

可視光の色は,波長が短い順に,青・緑・赤である.また,問1の結果より強めあう波長 ($\lambda$) が短いほど,膜の厚み ($d$) は薄いはずである.よって,下部ほど膜は厚いと考えられる.

◆ 第3問B

パッと見だけでは何の問題なのか分かりにくいかもしれない.問3の選択肢やAに続く問題であることも合わせ,電波の入射波と反射波が重なるという設定であることを読み取りたい.あとは,定常波の腹と腹(節と節)の間隔が半波長であることを用いる.

[問3]⑦*

入射波と金属板による反射波が重ねあわさり,定常波が生じていると考えられる.

[問4]③*

#データ処理

表より,定常波の節の間隔が約$15\,\mathrm{mm}$であると読み取れる.よって,波長は約${30}\,\mathrm{mm}$である.

◆ 第4問A

エレキギターのピックアップの仕組みについての問題であるが,元々知っていた受験生はほとんどいないだろう.問題文を読んで推測していく.コイルの近くで鉄製の弦が動くことで電位差(電圧)が発生するわけだから,電磁誘導がらみの現象であることは分かるだろう.あとは,近くに配置された磁石の役割であるが,これ自身は動かないため,電磁誘導の原因とはならない.この磁石により鉄製の弦が磁化されるのである.

[問1]④

弦を強くはじくことで,振幅が大きくなる(振動数は変わらない). なお,弦の固有振動の振動数は,弦の長さ,線密度,張力の大きさで決まる.

[問2]⑥**

銅は磁化されないため,電磁誘導を引き起こさない.

◆ 第4問B

Aに続き,磁石が動くタイプの電磁誘導を扱う.難関大で出題されるような意欲的な問題.ファラデイ則を基本に考えてゆく.

※ 東京工業大[’00]に似ている.2022年度本試験も参照.

[問3]⑤**

#定性評価

BよりAが高電位になったということは,B→コイル→Aの向きの誘導起電力が生じたということ. 仮にA-B間を接続し,誘導電流が流れたとすると,コイルは上向きの磁場を作る. その際,レンツ則より,落下してくる磁石は,その運動を妨げる向きの力を受けるはずであるから, 磁石はN極を下にして落下してきたと分かる(通俗的には,「磁束の変化を妨げる」という考え方をすることが多い). なお,磁石の力学的エネルギーが減少した分,導線の抵抗でジュール熱が生じている.

[問4]④** / ②**

$h$が$\dfrac{1}{2}$倍になれば,コイル通過時の磁石の速さ$v$は$\dfrac{1}{\sqrt{2}}$倍になる(重力加速度の大きさを$g$として$v=\sqrt{2gh}$であることは,エネルギー保存則などによりすぐ分かる). 電圧$V$は,コイルを貫く磁束の時間変化率の大きさに等しいため, $v$にほぼ比例する.よって,約$\dfrac{1}{\sqrt{2}}$倍となる. また,$\varDelta t$は,$v$にほぼ反比例するため,約$\sqrt{2}$倍となる.

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