本稿では,入試物理における熱力学分野の学習法について,一般的な戦略を解説します.効果的に理解を深め,効率よく学習したい受験生にオススメです.また,具体的な実践の例として,JUKEN7物理講座『基幹物理①』熱力学分野の活用ガイドを紹介します.受講検討中の方・既に受講中の方は,是非参考になさってください.
§ 熱力学分野の全体像
◆ 分野の特徴
熱力学分野では,主として理想気体の熱現象を通じで温度と熱について学びます.温度や熱は,日常的にも身近な量であるにも関わらず,力学では扱いませんでした.温度・熱とそれらに関わる諸量・諸法則を扱えるようになることが主要な目標となります.
ミクロとマクロ
教科書では,気体の振る舞いについてミクロな説明とマクロな説明が併用されて(悪く言えば行き当たりばったりに)説明が進んでいきます.本来の学問としての熱力学はマクロな視点を取るものです.その本来の在り方に従って,学習する方が実は混乱が少ないように思えます.
JUKEN7のカリキュラムでは,マクロな視点とミクロな視点を明確に区別し,入試対策としての進めやすさと大学以降の学びへのスムーズな接続を両立しています.
学習効果が出やすい分野
力学同様,熱力学でも体系的な学習が重要となりますが,範囲がかなり狭く,入試では最も得点源にしやすい分野です.「熱力学の基本と例外」の考え方(詳細は後述)を身につければ,それだけでかなりの問題が解けるようになります.学習の見通しが立ちやすい分野とも言えるでしょう.
範囲が狭く,覚える公式・身につける思考法が最も少ない分野ゆえ,学習効果が出やすいです.そのある程度力学の学習が進んだ段階で早めに取り組みはじめるのがオススメです.
このような事実にも関わらず,解法が整理できず,ごちゃごちゃしていると感じている受験生も多いようです.一気に解法を完全に整理することで,スッキリ理解できるようになります.安心してJUKEN7のカリキュラムについてきてください.
◆ 出題分類と優先順位
熱力学分野の入試問題は次のように大きく分類できます:
I. 熱力学の基本思考・例外処理
II. 気体分子運動論
III. 熱量保存則の関わる計算問題
とにかくIの基本思考をマスターすることが大切です.基本思考を理解することで,例外処理の考え方が「例外的」であることが浮き彫りになり,入試問題の解法で迷うことがなくなります.その後,モル比熱や熱効率などの細かな知識を仕入れていきましょう.それらの後,ⅡやIIIについても対策するのがオススメです.
◆ 苦手にしない心構え
「化学」と混同しない
化学でも状態方程式や熱量保存則が登場します.しかしながら,物理の問題は化学の問題と同じ考え方では解けないことが多いので注意が必要です.
理想気体の状態方程式は,高校化学にも登場しますが,「力のつりあい」は範囲外です.それゆえ,化学の問題では圧力を決めるための条件が問題文中に与えられることになります.その際に求められるのは,問題文から条件を読み取る能力です.
また,熱量を求める問題も高校化学で登場します.しかし,「仕事」が範囲外ですから,比熱を用いれば解きる問題が主になります.
以上のような化学の解法と物理の解法を混同してしまうことで,物理の熱力学が苦手になってしまう受験生が多いので注意してください.物理では化学より多くの考え方が必要となるため,しっかり意識して学ぶことが重要です.
不毛な分類に惑わされない
教科書通りだと,定積変化・定圧変化・等温変化…というような分類で学ぶことが多いですが,入試問題の解法という観点では,例外処理を除けばすべて基本思考で扱えます.しっかりと解法に基づいて思考を整理しておくことが大切です.
§ 熱力学の単元別ガイド
ここでは,単元ごとに効果的な学習のためのポイントを解説します.また,JUKEN7基幹講座内の各単元の講義を紹介し,受講ガイドも併記します.
◆ 熱力学の基本思考
とにかく徹底的に「基本思考」をマスターすることが大切です.それにより次に扱う例外処理の考え方が「例外的」であることが浮き彫りになり,入試問題の解法で迷うことがなくリマス.
- 理想気体の状態方程式・内部エネルギーの公式,そして熱力学第1法則を押さえる.
- 基本思考として,状態方程式から温度を求める流れ,熱力学第1法則を用いて吸熱量を求める流れを徹底的に訓練する.
- P-V図をしっかり書くことがポイント.
※ 化学との混同に注意!
※ 仕事の求め方でも混乱がみられる.力学での基本を確認しつつ.
※ 理想気体以外の物体に対する熱力学の問題も,難関大においてわずかに存在しているが,理想気体の扱いを正しく学んでおけば同じように考えることができる.
【FNDs】熱力学の基本思考 – 約80分
基本的な公式を知っている方は「基本思考のまとめ」のセクションだけを確認するのでもOKです.
はじめに / 理想気体の状態方程式 / 理想気体の内部エネルギー / 気体が外部へする仕事 / 熱力学第1法則 / 基本思考のまとめ / Fr例題17
【標準演習】熱力学の基本思考 – 6題 約70分
問題1〜4が基本的な設定です.必須.
◆ 熱力学の例外処理
理想気体の状態変化において,基本思考で扱えないものは,断熱変化と非平衡状態を経るような過程(混合や拡散など)のみである.それについて学ぶ.
- 断熱変化:ポアソンの公式と内部エネルギー変化からの仕事の逆算.
- 非平衡状態を経る過程:全体のエネルギー収支.モル数の保存にも注意.
- 教科書では,定積変化・定圧変化・等温変化などの分類に沿って学ぶことが多いですが,入試問題の解法という観点では,例外処理を除けばすべて基本思考で解けることに注意が必要です.
- この点を意識して学習することで,非常に効率よく効果的に学ぶことができます.
※ 断熱変化であっても,準静でないものは非平衡状態を経る過程としての取り扱いとなる.
※ ポアソンの公式は,問題文で与えられることも多いが,覚えておくことを推奨.
※ 化学反応が起こる場合はモル数は保存しないが,入試物理では化学反応を扱わない.
※ 熱力学第2法則についても触れられればよい.
【FNDs】熱力学の例外処理 – 約40分
例外処理①:断熱変化 / Fr例題18 / 熱の伝わり方に関連する雑談 / 例外処理②:非平衡を経る過程 / Fr例題19 / 熱力学第2法則に関連する雑談
【標準演習】熱力学の例外処理 – 2題 約10分
【FNDs+】熱力学の核心 – 約60分
色々な状態変化 / 温度と熱について
◆ 熱力学の拡がり
後回しにした必須知識をここで仕入れる.難しくもなく分量もないが,誤解がよく見られる単元ゆえ,基本と例外をしっかりマスターしてから取り組むことを推奨する.
- モル比熱:定義,マイヤーの関係式,定積モル比熱と内部エネルギーの関係.
- 熱機関:効率の定義をしっかり.
- 微小変化における近似:一度触れておく.
- ピストンの振動:基本思考に当てはまらないようであるが…
※ 熱機関と熱力学第2法則の関係などにも触れられれば面白い.
【FNDs】熱力学の拡がり – 約50分
モル比熱 / 気体の微小変化における仕事 / 熱機関(熱サイクル)
【標準演習】熱力学の拡がり – 2題 約60分
◆ 気体分子運動論
ミクロな視点で気体分子の運動を扱う.ここまでの熱力学のマクロな見方と混乱が生じやすいため,ここまでの学習がある程度進んだ後に取り組むことを推奨.
- 概念自体を難しく感じられる場合もあるが,問題パターンとしては直方体容器と球形容器の2つのみ.
- それら自力で議論を構成できるレベルまで学習すれば充分.
※ 余力が無い標準レベル受験生は,容器の壁面が動くパターンまでは扱わなくてもよいかもしれない.
※ 大学以降につながるという観点では,マクロな見方とミクロな見方を対比して学んでいくのがよいだろう.
【FNDs】気体分子運動論 – 約105分
導入 / 立方体容器 / エネルギー等分配則
【集中講義】気体分子運動論の応用 – 約200分
球形容器* / 光子気体* / 重力による密度勾配* / スペクトルのゆらぎ / 速度の色々な平均# / 平均自由行程# / 気体の噴出# / 気体の熱伝導#
◆ 流体の圧力や浮力
【集中講義】流体の圧力 – 約80分
はじめに / 液体の圧力分布 / 液体に流れがある場合 / 気体の圧力分布
【集中講義】浮力 – 約130分
アルキメデスの原理 / 諸々 / 浮力を受ける物体(力学) / 液体と接する気体
【集中講義】気球と浮沈子 – 約80分
導入~とある例題 / 気球が浮く条件 / 風船が浮く条件 / 浮沈子
◆ 熱量学
熱容量,比熱や潜熱を用いた熱平衡の計算問題については,いくつかの問題を見ておけば充分.
※ 熱量学はカリキュラムには(現時点では)含めていません.各自で教科書や問題集の例題等に取り組んでおいてください.