【物理の土台を築く】力学の学習戦略&基幹講座活用ガイド

本稿の前半では,入試物理における力学分野の学習法について,一般的な戦略を解説します.効果的に理解を深め,効率よく学習したい受験生にオススメです.後半では,具体的な実践の例として,JUKEN7物理講座『基幹物理①』力学分野の活用ガイドを紹介します.受講検討中の方・既に受講中の方は,是非参考になさってください.

力学はどの大学でもほぼ必ず出題される上,物理の他の分野でもその知識・思考法を応用するため,重要度が最も高い分野です.力学の思想は,すなわち物理学の基本思想になりますから,力学の学習を通じて物理的な考え方を身につけることが,他の分野を学ぶ際にも大きな助けになることでしょう.

一方で,高校物理の力学は,実は大学教養レベルの力学と大差がありません.もちろんいくつかの(それなりに多くの)項目が抜いてはありますが,力学の考え方・思想そのものは大学と同じものを学ぶと考えてください.

それゆえ,習得に最も時間がかかるにも関わらず,物理の学習の一番はじめに取り組まなければならないところが,学習者にとってのハードルを高くしています.裏を返せば,物理は学びはじめが肝心で大変さを伴うのですが,それを乗り越えてさえしまえば,その先の学習はかなり進めやすくなります

最優先したい単元は…

まず,根幹をなす単元(運動方程式,運動の時間追跡,力学的エネルギー保存則,2物体系の基本)に取り組み,熱力学や電磁気などの他の分野に進みながら,それらの範囲の演習を進めていきましょう.それ以外の単元は後から埋めていく形でよいでしょう.

※ まずはとにかく,物体に働く力を図示して運動方程式を立てられるようになることが大切です.それが不完全なままだと,その後の運動量・力積やエネルギー・仕事でのミスが減らなくもなってしまいます.はじめに,「運動方程式と束縛条件」に丁寧に取り組んでください.そして,力学の根幹をなす単元(運動方程式,運動の時間追跡,力学的エネルギー保存則,2物体系の基本)の基礎を学んでゆくことで,力学の考え方に親しんでゆくことができるでしょう.

完璧主義は禁物

力学がある程度できないと他の分野に進めないものの,力学を完璧にしてから他分野に進もうとすると学習計画が破綻する.力学は範囲が最も広いため重要単元を優先的に進めつつ,他の分野も並行して進めないといけない.

最も思考力が問われる

入試物理の中で力学が最も問題の幅が広く,試験場での「思考力」も問われます.普段の学習から,個別の知識だけにとらわれず,体系を意識した学習を進めるとよい.また,ひととおり学び終わった段階で,知識・スキルを柔軟に引き出せるように,頭の中を整理する必要があります.

運動学

速度・加速度の定義を押さえたら,なる早で運動方程式へと進むのがオススメの単元です.

  • とりあえず1次元の場合だけ扱い,2次元・3次元では成分分解して扱うとだけ思っておけばよい.
  • 相対速度・合成速度などは,必要に応じて学んでいく方がモチベを維持しやすい.

※ ベクトルの図形的な理解も便利な状況はあるが,必須ではなく,問題演習の中で学んでいけば充分.

運動方程式と束縛条件

運動方程式の立て方と束縛条件との連立について学びます.

  • 優先すべき4つの力:重力,弾性力,糸の張力,垂直抗力を優先して扱うのがよい.
  • 束縛条件:未知量の力(張力,垂直抗力,静止摩擦力)が関わるときに必ず必要になることを理解した上で,典型的な例について訓練する.
  • 摩擦力:静止摩擦力と動摩擦力の混乱が多いため,ある程度慣れた後に学ぶのがオススメ.
  • 液体の圧力・浮力:教科書では早い段階に扱われるが,実は高度な内容を含み,難関大入試でも頻出である.実践的な問題演習の段階で学ぶことを勧める.
  • 運動方程式は習得に時間がかかるため,完全にマスターしてから次に進むより,続くテーマの学習を進めながら,運動方程式を立てる練習・復習を同時に行うのが効率よい.

※ 一般の参考書・問題集では,運動方程式に到達する前に,等加速度運動,放物運動,力のつりあい等のセクションがある.しかし,そのあたりを軽く飛ばして運動方程式にじっくり取り組む方が実力も付きやすく,学習のモチベーションも保ちやすいはず.
※ 慣性の法則については,簡単に触れ,深い意味合いは後で必要に応じて学べばよい.
※ 「束縛条件が必要なときとそうでないときがある」という誤解を防ぎ,「自明な場合とそうでない場合がある」と正しく理解することが大事.状況に応じて,束縛条件が自明でない場合は後回しにしてもよいだろう.

運動の時間追跡運動

運動方程式と束縛条件を連立して解くと物体の加速度が得られる.その後,加速度から速度や位置を時刻の関数として求める手法を学ぶ.

  • 高校物理で運動の時間追跡ができるのは、基本的に等加速度運動単振動のみ.教科書では等加速度運動が最初,単振動が後に出てくるが,数学的な基礎力がある受験生にとっては,等加速度運動と単振動をまとめて学ぶと効率がよい.
  • 等加速度運動:公式当てはめだけでなく,v-tグラフの利用が入試本番で役立つ.積分での理解も.
  • 標準レベルの受験生は,等加速度運動と単振動をしっかり学べば十分.
  • 難関レベルの受験生は,加速度を積分して速度や位置を求める考え方を普遍的に学ぶのがよい.最近では、指数関数で表される運動が増えているので、これも理解しておくと良い.理想的には,単振動と指数関数で表される運動を微分方程式として学ぶのが効率的.

力学的エネルギー

力学的エネルギーの単元では,まず「エネルギーとは何か」という概念に脱線しがち.それより「どうやって使うか」「どんな時に使うか」に集中して学ぶことが大切.概念は後回しで構わない.

  • 仕事の計算パターンを把握した訓練:力が一定の場合,1次元の場合.
  • 運動エネルギーと仕事の関係力学的エネルギー保存則力学的エネルギー変化と非保存力の仕事などの関係が混乱しやすい部分です.位置エネルギー(potential energy)の意味を明確に理解し,系 (system) の捉え方を強調することで統一的に理解することができる.

※ 仕事をエネルギー収支から逆算する問題もある.演習の中でこちらにも触れていく.
※ 「系の見方」は,教科書がうまくカバーできていない概念のため注意.

円運動

円弧を描く運動が分かっている運動については,円運動の公式を適用するという単元.

  • 円運動の加速度の公式を押さえた上で,等速円運動非等速円運動の代表例を扱い,定石を理解しておく.

※ 大学以降では,あらゆる曲線運動は瞬間的に円運動で近似できるという考え方もあるが,入試レベルではそれを意識する必要はない.

複数物体系の基本

初心者と中級者の間で差がつきやすい「複数物体系の運動」の保存則(運動量・エネルギー)を用いた取り扱いを学ぶ.

  • まず,運動量保存則について学ぶ.
  • 複数物体からなる系の力学的エネルギーについて理解する.
  • 複数の物体の連動した運動では,全体で1つの系と見て,運動量と力学的エネルギーの保存則で扱うという定石のトレーニング.これで中級.
  • 束縛条件も連立する場合まで扱えば上級.
  • 個々の運動が追跡できるのは,運動方程式と束縛条件があまり複雑な形をしておらず,個々の運動が等加速度運動か単振動に帰着できるような場合に限られることも理解する.

※ 重心運動相対運動に注目して解ける場合もあるが,これは特殊なパターンでしかない.難関大入試ではよく出題されるが,早い段階で無理に勉強する必要はない.

衝突

衝突も複数物体系が連動する運動の一例だが,衝突時に働く力の詳細が不明のため,定石とは別の取り扱いが必要になる.

  • 衝突時であっても,外力がない方向の系の運動量は保存する.
  • 力が未知であるためエネルギーの議論はできない.そのため,問題文で与えられた条件(衝突のモデル)を読み取って問題を解かなければならない.
  • 頻出の衝突のモデル:反発係数を与える,弾性衝突の指定,衝突後の相対速度の明示.

※ 物理では,現象を指定すれば解法が決定されます.衝突の場合はどういうモデルを扱うか指定しなければならないため.問題文にある条件をしっかり読み取ることが重要です.この点が例外的なため注意が必要.

中心力と天体の運動

主に万有引力のもとでの天体の運動を学びます.歴史的な背景やエピソードは面白いものもありますが,入試対策としては比較的扱いやすい単元です.

  • 面積速度保存則ケプラーの法則を学ぶ.
  • 円軌道楕円軌道の場合の定石をしっかり押さえておけば十分です.
  • 難関大受験生は,面積速度保存則を天体の運動に限らず,一般論として理解しておくことが求められます.

※ 双曲線軌道の解法は,楕円軌道ど同じ.

動く座標系

混乱の起こりがちな動く座標系における慣性力(架空の力)を扱います.入試で出題されることは多いものの,止まっている座標系動いている座標系の視点が混乱しがちで,多くの受験生が混乱します.基礎的な学力がしっかり身についた後に学ぶのが効果的です.

  • 慣性系に対し,等加速度運動している座標系における慣性力と等速回転している座標系における遠心力について学ぶ.
  • 「動いている観測者から見ると…」といった形で曖昧に表現されることも多いが,異なる座標系を扱っていることを明確に理解することが重要.

※ 範囲外だが,興味があればコリオリ力に触れるのも面白い.
※ 将来,物理学を深く学びたい方は,特殊相対性・等価原理についても簡単に触れると興味深いだろう.

剛体

剛体については,つりあいについてのみ扱います.

  • 剛体のつりあいの条件として,力のつりあいと力のモーメントのつりあいを連立する.
  • 重力の作用点としての重心の知識も押さえておく.
  • 典型設定として,棒のつりあい(摩擦がらみ),箱のつりあい(倒れない条件を含む)に触れておく.

※ 難関大では,剛体の運動に関する出題も稀にありますが,演習の中で多少触れておき,出会ったらその都度対応する形で充分.

重心(質量中心)

複数物体系の連動した運動において,重心の運動に注目すると,特殊な設定でうまく解ける場合がある.これは非常に特殊な設定であり,入試では決まりきったパターンでしか出題されない.それを扱う.

  • 決まりきった典型的なパターンを一通り押さえておけば充分.
  • 標準レベル受験生は,余力があれば学び,最低限の知識を押さえる程度でよい.
  • 難関レベル受験生は,ある程度学習が進んだ段階でしっかり学んでおこう.

◆『基幹物理①』力学分野 収録講義一覧

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