【物理】電磁気の学習戦略&基幹講座活用ガイド

本稿の前半では,入試物理における電磁気分野の学習法について,一般的な戦略を解説します.効果的に理解を深め,効率よく学習したい受験生にオススメです.後半では,具体的な実践の例として,JUKEN7物理講座『基幹物理②』の活用ガイドを紹介します.受講検討中の方・既に受講中の方は,是非参考になさってください.

力学が理学部的に「物理学」の基本精神を学ぶ分野であると言えるのに対し,入試物理の電磁気分野は工学部的な姿勢を学ぶ分野と言えるかもしれません.電磁誘導ではある程度理論的なことも学ぶものの,力学における運動方程式に相当するような電磁場を決定する基本法則(マクスウェル方程式系)を学ぶわけではなく,入試では特に回路に関わる問題が重視されます.それゆえ,電磁気分野を学ぶ際にはある程度パズル的に楽しんで学習することもできる分野だと言えます.

電気を得意にする姿勢①

電磁気分野を得意にするために,最も大事な精神姿勢は,はじめから「電気ってなんだかよく分からない」と言って学習を投げ出さないことです.電気に限らず,エネルギーであれ何であれ,それが何であるかということを最初からつかめるわけではありません.計算をくり返し,持っている性質に精通し,慣れ親しんでいくことで初めて概念把握ができるものなのです.学習の初期の段階では,「電気ってなに?」という疑問には一旦フタをしておきましょう.

電気を得意にする姿勢②

抽象度が高いのでじっくりやるというより何周かする方が身につきやすい.

電気を得意にする姿勢③

また,電磁気分野が苦手になる最大の要因が公式・用語の混乱にあります.公式・用語を多いわけではないので,丁寧に正確に扱えば必ず定着させることができます.例えば,電場・電位・電圧・起電力・電流・電力といった用語の意味を正しく把握しなければ問題を解けるわけがありません.まずは,用語の意味を正しく把握することです.ただし、概念を把握せよ,ということでは勿論ありません.「電流」であれば,「導線断面を単位時間あたりに通過する電荷(電気量)」といった具合に,計算に結び付く形で用語を把握すべきということです.端的に言えば,物理量の定義を定量的に正確に知っておくということです.特に,電気の学び始めには,電場・電位の用語・公式が混乱してやる気をなくしている受験生が無数にいます.まずは,用語・公式をまとめた紙を作り,それを参照しながら基礎的な問題を解いていくのが良いでしょう(まとめはルーズリーフ1枚で済むず).

電磁気分野前半[電気]の大枠

電気範囲の入試問題は大雑把に次のように分類できます:

I. 静電場
II. 回路の状態の決定
III. 回路のエネルギー

Ⅰでは,静電気力(クーロン力)について新しく学び,力学のときと同様に,力を図示して運動方程式を立てたり,エネルギー保存則を立ててゆくことになります.この部分に特有の学習項目は,静電気力に関わる公式・用語のみであることに留意してください.

Ⅱでは,回路素子である電池,抵抗,コンデンサの性質を押さえた上で,電荷保存則とキルヒホッフ法則を立てられるようになれば方針に困ることはなくなります.これは回路がいくら複雑化しても変わりません.パズルを解くつもりで,似たような問題をくり返し訓練することで,得点源にしやすい所になります.

Ⅲに関して,エネルギー収支の考え方自体は,力学でも学ぶものですが,ここでは,エネルギーから仕事や力を逆算する考え方が多くなります.力学の訓練を済ませた上で,ひととおりの典型問題に取り組むのがよいでしょう.

電気分野の学習時期としては,受験学年の夏までに標準的な問題演習まで済ませておきたいところです.

電磁気分野後半[磁気]の大枠

磁気範囲野の入試問題は大雑把に次のように分類できます:

I. 静磁場
II. 電磁誘導
III. 交流回路

ⅠとⅢに関しては,電気分野がそれなりに出来ていれば,公式や知識が多少増えるだけで,基本的に困ることはありません.

Ⅱでは,電磁誘導特有の「誘導起電力の決定」と「エネルギーの変換」に関わる訓練が特に必要です.

学習時期としては,電気分野の基礎固めができていれば,秋からでも充分に間に合います(余力があればもっと早い時期でもちろん構わない).逆に言えば,電気分野を夏までにある程度固めておかないといけないということです.

  • 静電場とコンデンサが特に苦手になりがち.
  • 一方で,回路の問題は非常にとりやすく,交流は特に楽.
  • 電磁誘導は後回しでも良い.

難関大志望者は…

標準レベルと難関レベルの問題間のレベル差が少ない分野です.難関大志望者も典型問題にしっかり取り組むことが大事です.解法パターンが少ないので,きちんと学習しておけば,試験場で手が止まってしまうことが防ぎやすい分野です.

静電場

  • 静電気力(クーロン力)の下での電荷の運動:力学の応用問題に過ぎない.
  • 点電荷の作る電場:電場・電位の用語・公式に混乱が多い.公式集を見ながらトレーニング.
  • 拡がりのある電荷分布の作る電場:電気力線を用いた作図で求める.
  • 電位分布が既知の場合:電場と電位の関係から逆算する.
  • 静電場の求め方は上記3パターンのみ.優先順位をつけ,しっかり整理して学習すれば,比較的短期間でマスター可能.

回路の基本

受験生が最も苦手とする電磁気分野ですが,回路の問題をマスターしてしまうと,安定した得点源にできて精神的に有利になる上,他の部分の見通しも一気によくなります.特に,回路の電圧とエネルギーの混同なども多く,混乱を助長しています.まずは回路の状態の決定をしっかりマスターし,その後に回路のエネルギーについて学ぶとスムーズに理解が進むでしょう.

  • 回路素子の性質電池抵抗コンデンサの性質をしっかり学び,これらが組み合わされた回路の状態を決定する訓練を徹底的に行います.
  • 回路の状態の決定回路素子の性質が与えられた条件下で,電荷保存則キルヒホッフの第2法則によって一意に決まります.
  • コンデンサの内部構造に触れる問題には慎重に取り組む必要があります.内部構造に触れる場合と触れない場合で解法が異なるという勘違いが,受験生の混乱を生む原因となっています.結局は,電荷保存則キルヒホッフ則を正確に適用すれば解決できるため,この理解を徹底することが重要です.

回路の諸々

この単元は,余力がなければ後回しにしてもよい.

  • 合成抵抗:公式が当てはまらない問題が特に重要.定義に基づいて求められるようにしておく.
  • 回路の対称性:単に対称性と言っても図形的対称性と電気的対称性があり,つまづきが多い.正しい解説に触れて欲しい.
  • 導体・誘電体:性質を押さえ,コンデンサに挿入するタイプの問題に取り組む.

回路のエネルギー

  • 各回路素子(電池抵抗コンデンサ)のエネルギー的な役割を学び,それらの間のエネルギー収支関係を数式と言語の両面から理解できるようにする.
  • 応用問題として,コンデンサの極板間引力誘電体が受ける力エネルギー収支から逆算する問題がある.思考過程を意識して練習しておくことで,力学的な学力低下を防ぐ必要がある.

静磁場

静磁場中での荷電粒子の運動と電流と磁場の相互作用について学ぶが,特に難しいことはない.

  • ローレンツ力の下での荷電粒子の運動を扱う.
  • 電流が磁場から受ける力について扱う.ミクロな視点での説明も扱う.
  • 電流の作る磁場は以下の3つのパターンのみ:直線電流円電流ソレノイドコイル.
  • ビオ=サヴァールの法則は範囲外だが,その考え方自体には触れておくとよいだろう.

電磁誘導

電磁誘導は,電磁誘導によって生じる誘導起電力の決定→回路と力学の法則の連立→エネルギー収支の考察という流れの融合的な問題になることが多い.しかし,ここまできちんと学習してきた方にとっては,新しいことが「誘導起電力の決定」と「電磁誘導におけるエネルギー変換」の2点のみ.まずは,「誘導起電力の決定」を徹底的に扱うことが重要.

  • 静磁場中で回路が動く場合と,磁場が時間変化する場合をしっかり区別して議論する.
  • 「vBl公式」と「ファラデイの法則」の使い方・意味内容についてしっかり学び,多めのトレーニングを積む.
  • 続いて,電磁誘導におけるエネルギー変換を理解する.数式に頼り過ぎず,言語化できるようにする.特に磁場の役割をしっかり理解しよう.

※ 誘導起電力を求め間違えれば,続く議論は全て誤りになるため,ギリギリまで精度を上げるトレーニングを!

コイルを含む回路

回路素子として,電池,抵抗,コンデンサに続き,コイルについて学ぶ.

  • コイルの性質のつまずきポイント:誘導起電力の向き電位の高低の関係,コイルの電流の連続性
  • 例題の中でコイルの扱いに慣れた上で,LC共振回路も扱っておく.

交流回路

  • 交流回路においても,回路の状態を決定する手法はこれまでと変わらない.
  • 典型的な設定の問題を押さえながら,細かな知識(実効値,リアクタンス,インピーダンス,平均電力など)を順次学んでいく.

※ 教科書通りの暗記に頼った学習法は非常に効率が悪い単元です.

◆『基幹物理②』収録講義一覧

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